囚われの一角獣

囚われの一角獣 英国妖異譚3 (講談社X文庫ホワイトハート)
 

一角獣のタペストリー。メトロポリタン美術館に行った時に割と探したんだけれどもなくて、お土産屋さんでしおりを買いました。まさか別館クロイスターズにあるとは思いもせなんだ。あんまり事前学習をしないのも問題だな、と改めて思います。

一角獣はキリストとも思われ、復活する象徴。人のせいで血を流して囚われているのに、その姿はどこかこちらをあわれんでいる。高貴で、侵しがたい。「姿のないものこそ、永遠なれ」願うことで、人が絶えず想うことで、存在は純化する。…怖い怖い!ユウリ、ちゃんと大学行こうね!あの携帯小説信じてもいいですか??

犠牲のテーマ。ユウリに延ばされるいくつもの助けを求める手によって、一角獣は犠牲を強いられる。キリストもそうだし、そしていくら本人が否定しようともユウリもそうです。お人よしなんだな!

 

サングラール。キリストが最後の晩餐に使った聖杯。聖杯伝説の行きつく先が月だからなー。もうちょっと冷静になろうと思って読み返し中です。

月に魅入られ、破壊と再生を掌ることを思ったユウリ。それは一般的なルナティックな感情なのか、それともユウリ特有の違うものなのか、判断はつきかねます。

シンクレア登場。彼は最初から言われていたんですね、宗教結社の位階の保持者、と。エネルギー保存則に則れば、ユウリはもともとこの地球の法則から解放されていた人間、とも言える。

 

「この状況でくだらない話を聞かせたら、即刻犯すぞ」と言い放ったアシュレイは異端の場にいて実に生き生きとしていますね。アシュレイはもちろんシモンやユウリが来ていることは(メールを覗いて)知っていたんでしょうけど、邪魔もしようとは思ったんでしょうけど、シモンの言うとおりそれが第一の目的かどうかは微妙なところだな…と。頭の片隅にある目的のうちの一つだろうけれど。

己が目でみたものはそのまま受け入れることにしているアシュレイには、多少のことでは幻覚など見ないという自分に対する絶対の自信があるのだ。

今回は派手に死人が出ていましたが、そんな中でアシュレイやシモンはずっと自分を保っていましたよね。

 

しかしどう考えても今回はシモンの失点1でした。ユウリを上から見下ろしているしね。シモンはたいていの人にとっては憧れなんだろうけれど、色々な負の感情がある人にとっては(負っていうか、それがいいとか悪いとかではなくて)ものすごくうっとうしい存在だと思う。うざいというかね。

ユウリが銃の眼前に立った時の、ユウリを腕の中に庇いこんだシモンと、銃を蹴り上げたアシュレイの行動の差は、普段の行為そのままの象徴ですね。

シモンはまぎれもなくユウリの守護者で、身を呈して、自分が犠牲になっても守ろうとする。アシュレイは攻撃者で、危機そのものをなくそうとする。どっちが欠けてもユウリにとってはいいことではないと思うのだけれどね。

「どうも目の前にいないと、緊張感がでない」この城から生きて帰るとしたら、間違いなくこの二人だ。

そういえば今回アシュレイは中国で服まで買って来ていました。一応休暇に中国に帰るという行動をしているとはね。どっかふらふらしていても不思議はあるまい。

 

ベルジュ家の子たちが出てきました。思えばこの巻あたりから、話は第一部の核心にむかって動き始めたと言えると思います。始動、ですけど、それにしても最初からちゃんと月、とかキリストがどうの、とか重要なキーワードは出ていたのだなあと思いました(軸がブレずに20巻でおさめたあたりはすごいと思います)。

アンリの問題発言、「未来の花婿候補」で、ユウリがシモンの花婿…?と一瞬考えて思いっきり頭を振りました。え、逆でしょ?←そういう問題ではない。

その花嫁候補なマリエンヌとシャルロット、…ってそっちかよっ!←当たり前だww半端ないわ、さすがの社交界。シモンは歓迎会を開こうとした家族より数倍の熱意をもってユウリを囲おうとしています。怖い。

アンリはこの頃はものすごく色々な混乱の象徴みたいな神秘的存在であったけれど、見事にユウリやアシュレイと関わってただのかわいそうな人になりました。ご愁傷。

吟遊詩人とうそぶいていたアンリは、たぶんシモンの王国に仕える気はなくて、ふらふらしていようと思ったのでしょう。