回天編

ミッターマイヤー!!!!!(え、そっち?

銀河英雄伝説〈9〉回天篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説〈9〉回天篇 (創元SF文庫)

 

とりあえずミッターマイヤーがマサということで、読もうと思い立ちました。

うーん、すごい。食わず嫌いしていたのがもったいないくらいでした。思想的な意味でも。そしてミッターマイヤー的な意味でも!(あとラインハルト!)

 

さてはて、初っ端からヤンは死んでます。ま、この本から読もうと(っていうかぶっちゃけミッターマイヤーとロイエンタールの物語から読もうと)選んだのは私ですが。

ユリアンがヤンの意志を忠実に守る人間であったがために、ヤンの言葉がたくさん出てきます。

「歴史は、人類全体が共有する記憶である。」

「ヤンは行動しつつも、『自分は正しいのだろうか、他にやりようはないのだろうか』と自分に問いかけつづけた」このあたり、高耶さんみたいです。問いかけることも、行動することも、どちらも怠ってはいけない、と。

「失われた時は永遠に返らない。だからこそ生命は無為に失われるべきではないのだ」ヤンはこの巻を見ていると、まるで達観した老人のようです。それはもう亡くなった人を思い起こしているからなのはわかるけれど、そんな平凡で穏やかなヤンが示した指針が(戦略ではなくて)、ユリアンを照らしていたのだなと。

ことばをだいじにつかいなさい

「何かを憎悪することのできない人間に、何かを愛することはできるはずもない」この世が善と悪とでなっているのだから、と。物事が存在する以上二面性を持つのであり、愛がすべてを解決するなどありえない。

「原因が参加する権利は人民になく、結果を負担する義務だけが押しつけられる」これが帝国主義の悪だ、と。逆に言えば、今民主主義として生きている中で、私には原因が参加する権利があるのだから、当然結果を負担する義務があるのですよね。

 

ユリアンにいち早く従って行動したアッテンボローも素敵です。孫策が亡くなった時に孫権に膝を折った周瑜のよう。

 

「権力者はいつも、多数を救うために少数を犠牲にしたと正当化する。だが自身が少数派であったことが一度でもあるだろうか」

ヴェスターラントのことは思いっきり皇帝のトラウマを突いた話だけに、そこからまた話が展開していくと思っていました。でもまさか、色恋沙汰に発展するとは思わなんだ。

つーか皇帝、可愛いよ。パニくって翌朝来るあたりとか、ミッターマイヤーの話しか知らずに薔薇を持ってくるところとか、よりによって「義務」とか「責任」とかそんな理由で求婚しにきたと相手の父の前で言っちゃうところとか、もう「天才少年」でしかない。恋愛ごとに疎いんだな。確かに心許した姉はああなっちゃったし、親友はああだし、ロイエンタールは漁色家な挙句の母親にトラウマ持ち、まともなのはミッターマイヤー夫妻くらいだ。ロイエンタールとかもうねえ、責任とって買う薔薇だけですごいことになると思う。

ラインハルトの悩み様が、完全に「やっちまった;;」的な感じなだけに面白いです。皇帝、私生活に隙がありすぎでございます。

そして一度の夜の営みが見事的中。すっげえ皇帝。うん、なんていうか、…おいおいおい…。

 

9月1日事件。「集団のエネルギーが一定の方向へ、理性を伴わず流出し、奔騰していくありさまは、集団の外にいる人間にとっては不気味であり、圧迫を覚えずにはいられない」圧迫を覚えるからこそ、人は集団に迎合するか、反発して別の集団の一部になるか、どちらかなのでしょう。

 

民主主義の代表であったトリューニヒト。ロイエンタールが見抜いたように、彼は一貫して自分を支持する民衆を見下してきたのでしょう。

民主主義の汚点として挙げられる遅延さ。結局公僕にしろ何にしろ、権力者には従うと思うのです。

 

で。ロイエンタールですよ。ロイエンタール。はい。泣けますわ。もう。なんなの。美学ですかそれが。矜持ですか。

戻れないと知った時に、皇帝に反逆者ではないと弁明することもたぶんギリギリだったのに(彼が猛禽類である以上)、オーベルシュタインやらラングやらが出てきたら発狂したと思います。たぶんそういうことじゃないかな。

それにしても優れた人はいるのに、歴史は往々にして3流の道化の手によって動くのですね。

グリルパルツァーがどれほど偉大であったとしても、「生涯の最後、全期間の1%に満たぬ時期の行動によって、それまでの生涯と功績がすべて否定されてしまうという、不幸な人間」と見られてしまう。それが、歴史が人類共通の記憶である限り歴史の流れに関係したことで何をやったかが重要なのであることは自明で、しかたないけど悲しいな。

ロイエンタールにしても、まあ理由は色々あるにせよ、やったことは結果的には、皇帝の御為であったとそう思うのです。自分自身のためでもあったと思う、でも彼は平穏を愛する人ではなかったのですね。そして彼の皇帝もまたそうであった、と。

でもやっぱり、ロイエンタールの大ばか野郎!」です。ベルゲングリューンはロイエンタールに怒るべきだったのかもしれない。

 

でもね、そりゃロイエンタールはまあ納得ずくですよ。それはそれとしてさ。

ミッターマイヤーの気持ちはどうなんのよ!!ってことですよ私が絶叫したいのは!!!!

見事にブチ切れてラングを殺そうとしたからなあ。

そしてロイエンタールとの死闘にわくわくしてたのもたぶん事実だし、「いざ尋常に勝負」な気分だったろうにそこに醜悪な場面がまじったらそりゃ…ねえ。

 

ミッターマイヤーがマサで、ロイエンタールが東山さん。…ダンスシンフォニーktkrって感じですか?

それにしても怖いなあ。マサも大好きなだけに、東山さんも好きなので、こういう舞台に出る、しかも人気の高いキャスティングっていうのが、どれほどのハイリスクハイリターンなのかってことですよ。原作の人気半端無いもん。この二人がそろったならダンスでも一発かましてほしいものですが、…それはそれでキャラに徹するのも難しいというか。

東山さん、身長低いんだな。マサも割と小さい(あの業界にして)と思っていたけど、変わんないんだ。うーん、ロイエンタールがでかい方がより萌えるんだけど(なんだそれ)。

ただね、関係性的に、ほらマサと東山さんってキャリア的には上じゃん?どう頑張っても東山さんの方がさあ!そこにね、期待です。どうあっても勝てないって思える、そんな相手だもの。マサも懐いてるしね!(どこまでもマサ主体にしか考えられんのか)

 

エルフは要するに、ロイエンタールの母親だったのでしょう。エルフだけじゃなくて、これまでロイエンタールに家族というものを与え続けた女性たちの象徴(ロイエンタールの方はついに気づかなかったような…)。目が青くて、ミッターマイヤー夫妻に希望と名付けられて育てられた子。

もうロイエンタールはミッターマイヤー夫妻の子として生まれ変わればいいと思います。

っていうか今時の同人でも思いつかない共同作業っぷりじゃないか…

 

「遅いじゃないか、ミッターマイヤー…」

この期に及んであんたはミッターマイヤーの名を呼びますか!家族のいない、家族性に欠けてしまった男が向ける相手はミッターマイヤーだったんだな。ラインハルトもそうだけど、つくづく家族性に欠けている男たちの暗いトラウマ劇でもあると思う。

だいたい最後の言葉がそれか。ナポレオン的なあれか。最愛の人はミッターマイヤーか!

疾風ウォルフが泣いているぜ…」

そのミッターマイヤーに向かってラインハルトが言った言葉。「卿は死ぬな」さらに生き続ける義務を負う。皇帝は、自身の寂寥ももちろんあったと思うけれど、それと共に友人たちが記憶から遠ざかること=本当の死を恐れたのではないか、と。

 

そういえばあとがき。あるミステリ作家って…旦那のことっすか。