木漏れ日に泳ぐ魚

最後の最後に希望を見せていくとは恩田陸の心が穏やかだった時期なんだろうか。この間の東京エピタフはこれよりまだ大人の話だった。ブラザーサン・シスタームーンはこれよりもきらきらしい物語だったから、単純にこちらの方が好き、とは言えないけど、的確についてくる小説もなかなかない。 強いて言うなら辻村深月みがある。

まず男女が同じぐだったやや暑い部屋でずっと閉塞感のある状態で話し続けているのが心にささる。 私もそういうことをよくやったし、事実その部屋には常に日本酒とビールはあった。わかる。男の子曰く料理が4品以上ぱぱっと出てこないとダメなんだって!お前らが欲しいのは家政婦だろうと思った。

これはアキの物語で、常にヒロはやや情けない役なので、これが恩田陸がたどりついた境地なのだろうかと思ってしまった。

さりげなく目の前の事実に知らんぷりをし、責任を回避して、逃げるところがそっくりだったとしたら。 恩田陸なんか男に騙された過去でもあるんですかと言いたくなる。

そして割と自殺衝動も出てくるから、この夜を経て朝日を浴びて、アキは生まれ変わったという解釈なのかしらね。自分の生死が歴史に何の影響も与えないことを知ったときは衝撃ではあったと思う。子供のころは世界の全てが狭かったから自分の世界の中では動揺を与えるけれど、結局のところこんなものだと思うのだ。 しかもアキはヒロに真実、思いついたことを言わなかったわけで、ヒロは自分の父を殺した間接的な理由は自分にあうためとかDNA鑑定のために煙草をゲットするためだと思ってるわけで、その罪悪感に苦しみながら一人で、真実これからも一人きりで、隣に誰がいようとも父親殺しの罪を背負って生きていかなきゃいけないと思うと、アキの復讐がリアリティがありすぎて。

アキ自身は朝日を浴びて、きょうだいじゃないヒロと決別して生きていけるからいいけどね!

きょうだいだったヒロを愛していた。わかり合えると思えてた相手を愛していたし、それは自己愛だよねといつものように思っていた。人を愛することは結局自分を愛することだと思う。

木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫)

  • 作者:恩田 陸
  • 発売日: 2010/11/10
  • メディア: 文庫